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医療技術の進歩と臓器提供

 先週の土曜日には阪大医学部教授の上野豪久部長と私たちの清風中学・高校卒業生で、同じく大阪大学医学部の平将生先生が本校で講演をしてくださいました。非常に内容のあるご講演でした。平先生のご専門は心臓移植です。iPSやクローンの技術が進歩すると移植の必要性が少なくなるのかなと思っていましたが、先生方のお話では、自分たちが医者の間にそれらが実現することはないということでした。今は生きている人から臓器提供してもらうしかないということです。
 平先生は心臓病のなかでも先天性の疾患をもつ子どもの治療にあたっておられます。心臓を移植をすれば長生きができるのですから、ドナーが現れることは喜ばしいことです。ただ、ドナーが現れるということは、誰かが脳死の状態になっているということでもあります。ある家族の不幸の上に、自分が生きるチャンスを得ることができる。倫理的にも非常に深い意味のある話だと思います。
 諸君が生まれる頃より以前は、本人の臓器提供の意思がなければ、臓器移植はできませんでした。それが2010年に法律が改正されて、家族の同意があれば臓器提供してもよいということになりまた。その結果、心臓の臓器移植は10倍に増えて年間で100人ぐらい臓器提供する人が出るようになりました。それでも日本の提供数はアメリカの50分の1、韓国の9分の1の割合だということです。
 臓器提供にはオブティングインとオブティングアウトという考えがあって、オブティングインというのは、日本やアメリカ、韓国などのように家族の同意があれば臓器提供できるという考え、オブティングアウトというのは、イギリスやスペイン、フランスなどが導入していて、基本は臓器提供可能で、本人が生前に反対の意思を示している場合にのみ臓器提供できないとする考え方です。
 日本の心臓移植の技術は非常に優れていて、20年後の生存率が90%を超えているということです。世界の平均が 70%を切る程度ということですから、いかに優れているかが分かると思います。また日本では保険診療が可能であり、比較的安い金額で治療を受けることができます。しかしながら提供者の理解があまり進んでいないせいもあって、提供数がまだまだ少ないということです。結果として治療を望む家族がアメリカに渡って手術を受けるという例も少なくありません。アメリカで心臓移植を受けると約5億円必要だということです。
 臓器提供の意志を表明するかどうかは、自分が脳死状態になることを前提とするので、多くの人が考えないようにしがちです。しかし、そのせいで提供の機会を逸しているともいえます。自分が脳死状態になったら、あるいは場合によっては自分が提供を受ける側になるかもしれません。いろいろなことを考えて自分の意志を明らかにしておくことが大切だと思います。
 朝礼でこの話をしようと思ったのは、上野先生と平先生は啓蒙のために講演に来て下さったのだということを痛感したからです。お二人は「今日は自分たちのため、みんなのために来たのだ」ということを繰り返しおっしゃって帰って行かれました。講演を聴いてくれていた生徒は沢山いましたが、先生方は本当は全校生徒に伝えたかったのだろうと感じました。だから、僭越ながら、もう一度、私の口から諸君に伝えさせてもらおうと考えたのです。
 上野先生も平先生も、臓器をもらった家族には、いただいた心臓のおかげで長生きができるのだから、慎重に大切に生きなければならないということを強く伝えるそうです。他人の臓器ですから、免疫細胞を活性化させ、身体を攻撃することもあります。そうなると、免疫抑制剤を使わざるをえず、病気にかかりやすくなります。手術が成功しても様々な問題に直面することになります。それでも、死ぬかもしれない人が臓器提供を受けて、元気になって頑張っている姿、家族が喜んでいる姿を見るために私たちは努力を続けますとおっしゃっていたのが印象的でした。
 諸君も医師を目指すかどうかにかかわらず、自分の生きざまの問題として、あるいは家族のことも考える機会にしてほしいと思います。

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