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人間だからこそ

 私たちの学校でも 残念なことに、いじめのような事案が時々あって、動物の本能というのはそういうものかとも思ったりもします。じつは、ジェレミー・デシルヴァという人類学者が、面白い本を書いています。『 直立二足歩行の人類史』という本です。その本には「人間を生き残らせた出来の悪い足」という副題がついています。これはどういうことか。
 これまでの進化論でいうと、ゴリラが手をつくナックルウォークがまずあって、やがて直立二足歩行へと移行したという定説がありますが、それはどうも違うのではないかという本です。今までは、ゴリラとチンパンジーと人間とは6 0 0~7 0 0万年前に 分かれたと言われてきたが、そうではなく、ゴリラやチンパンジーは彼らなりの進化の過程でナックルウォークを身につけたのだが、人間は初めから直立二足歩行をしていたと言うのです。
 人類は初めから二足歩行をしていたけれども、二足歩行には問題点がある。例えば、ウサイン・ボルトは人類最速といっても、チーターと競争したら負けます。二足歩行では効率はいいけれども、速さに弱点がある。日本人の四足での1 0 0メートル競走の記録というのがあって1 5秒らしいですが、まあとにかく走るだけなら、四本足で走った方が速いのです。そして、四本足であれば、たとえ一本ケガをしても三本で歩けますが 、二本足では一本ケガしたらもう歩けないですね。つまりスピードという点で二本足は四本足に劣っている。なおかつ、一本ケガしたらもう動けないというハンディがある。その上腰痛を引き起こす原因でもある。四足歩行には腰痛はないのだそうです。また、お産に関してもハンディがある。にもかかわらず、どうして二足歩行で人類は生き残れたのか。
 ジェレミー・デシルヴァの専門は足首の研究だそうで、人類の化石を調べてみたら、大きなケガをしているのに長生きした化石が出できた。これが何を意味しているかというと、大きなケガをしたけれども、周りの者が食事を運んだり、介助したり、共感したりすることによって助けたということであり、そういうことによって不利な二足歩行でも人類が生き残れたのではないかと彼は言うのです。
 人類が、二足歩行をするようになり、気道が開いて言葉がしゃべりやすくなり、相手に共感する能力、相手を許容する能力、困っている相手を助ける能力、いわゆる利他の力が備わったからこそ、ハンディがあっても、人類は生き残ったという結論をこの本は出しています。
 非常に新しい、しかも科学的根拠に基づいた本で、評判を呼んでいます。
 強い者が生き残る動物の本性は弱い者をいじめるところがあるのかもしれませんが、しかし人類は、むしろ共感する能力、許容する能力、協力する能力、つまりは利他的能力があったからこそ、生き残ってきたのだということであります。私たちが利他的な行為を行うのも進化の過程に沿ったことなのです。
 そういう意味でなら、人類は、万物の霊長と言われるのにふさわしい生き物ではないかと思います。
 以前ダライラマ法王が、親が子どもを殺したり、子どもが親を殺したりするようなそんな日本をどう思いますかという質問を受けたときに、次のように答えられました。親が子どもを殺したり、子どもが親を殺したりする人々よりも、相互扶助の精神で互いに助け合っている人々の方が圧倒的に多いのが日本だ。日本はそちらの方が勝利した 国だということを、忘れてはいけないというふうに答えられました。わたしもそうだなと思います。
 人間だからこそ互いに協力しあえるし、互いに助け合える。人間だか らこそ利他の気持ちを持つことができる。そしてそれが弱肉強食の世界から人間を生き残らせ、人間を人間たらしめている原理だという話です。私は非常に共感致しました。
 諸君らもいろいろ考えるヒントにしてもらいたいと思います。

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